一夜では終われない~ホテル王は愛しい君を娶りたい~
 三十分かけて焼き上げるふんわりとしたパンケーキはひと皿二千円の超高級品だ。簡単に手を出せる値段ではないにもかかわらずリピーターが多いのは、やはりほかでは食べられない味だからだろう。

「でもひとりで食べ切れるか心配。残すのはもったいないし」

「俺がいるだろう?」

「社長に残飯を押し付けるなんてできません」

 茶化して言うと深冬は驚いたように目を見張った。

 その顔を見て私もすぐにはっとする。

 ついあの頃のように言ってしまった。私自身が十年前とは違うと言ったくせに、彼といる時間があまりにも当然で、懐かしくて。

「お前は変わらないな」

 深冬の穏やかな声が今は胸に痛い。

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