一夜では終われない~ホテル王は愛しい君を娶りたい~
「触らない約束なんてしなければよかった。そうしたら今、お前を抱き締めてやれたのに」

 彼は私の髪の一本にすら触れない。

 でも乞うように伸ばされた指先が痛いほど切ない想いを教えてくれる。

「あの日、メモに頼らなければよかった。どんなに家に縛られていても、お前への連絡を優先するべきだった」

「私だって諦めなかったら、もっと早く出会えたよ」

 私の方こそ、どうして彼に触れるなと約束させてしまったのだろう。

 大きな手で優しくなでてもらいたい。深冬のぬくもりに包まれて安心したい。

< 83 / 261 >

この作品をシェア

pagetop