エリート警視正は偽り妻へ愛玩の手を緩めない【極上悪魔なスパダリシリーズ】
救われる
朝峰の執念の取調べに、作倉は疲れを見せていた。
日に日に注意力が散漫になり、苛立ちに任せて情報を漏らす。
一度目の勾留期限延長措置の後、目に見えて精彩を欠いていった。
新たに浮かび上がった構成員を調査して令状を取り、組織の末端構成員を芋づる式に検挙することに成功している。


歯車が噛み合い、捜査は確かに前進した。
俺は構成員たちの取調べは部下に任せ、インターポールとの情報共有に時間を割くことができた。


五月下旬。
その日、俺は外出ついでに、東京駅八重洲口の交番に立ち寄った。
歩が新海に任意同行され、連れて来られた場所。 
その後、大島を拘束して、最初の事情聴取を行ったのもここだ。


「あっ……瀬名警視正!」


カウンターにいた巡査部長の制服警官が、俺の顔を見た途端、サッと立ち上がって敬礼した。


「任務、ご苦労。……署長は?」

「あいにく、署長会議で不在でして……」

「ああ、いい。ついでに立ち寄っただけだ」

「は……」


恐縮する警官には淡々と返し、来たばかりの署から出ようとして……。


「ん?」


微かな鳴き声を耳にして、ふと足を止めた。
出入口から振り返る俺に、警官が「あ」と声を上げる。


「猫です」

「猫?」


警官がカウンターの奥に目を遣るのにつられて、俺もそちらに視線を走らせた。
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