エリート警視正は偽り妻へ愛玩の手を緩めない【極上悪魔なスパダリシリーズ】
「おい。俺を恋人とでも思って、デートの行き先を決めるようなフリをしろ」

「っ、こ、恋人、ですか」


予想だにしなかった要求に、やや声がひっくり返る。
「しっ」と鋭く制され、口を噤んだ。
承諾を伝えようと、こくこくと首を縦に振ってみせると、彼はデパートに背を向け、私を男性から隠すように、目の前を塞ぐ。


「上京してきて、ひとり暮らしと言っていたな」

「は、はい」

「家まで送っても、ひとりになれば同じことの繰り返しだ。今日のところは、男の家に泊まるように見せかけろ」

「えっ!?」


早口の指示に、私はまたしても声をあげた。
瀬名さんが不快げに眉根を寄せるのを見て、慌てて両手で口を覆う。
一度深呼吸してから、そっと両手を離した。


「これから恋人とデート風な演技、どうやったらそれらしいですか」


目を泳がせ、恐る恐る訊ねる。


「は?」

「わざとらしいと、嘘だって見抜かれそうじゃないですか」

「普通にやれるだろ、そのくらい」


コソコソと答えた私に、瀬名さんは素っ気なく言い捨てる。
だけど。


「それが……今まで、恋人って、いたことなくて」


私は意味もなく両手の指を絡め、ボソボソと小声で告げた。


「……は?」


たっぷり一拍分の間の後、怪訝そうに聞き返される。
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