朔ちゃんはあきらめない

 今しがた脱いだ服と下着をもう一度付け直す行為は、なかなか慣れない。シャワー浴びた意味ないじゃん、と感じてしまうのだ。しかし裸で出て行くわけにも行かない。

 「お待たせ」と声をかけながら部屋へ戻ると、朔ちゃんはベッドに寝転びスマホを触っていた。
「おー」とわたしの顔を見ないまま返事をするので、なんだか面白くない。わたしはそのまま朔ちゃんの横に寝転び「キスしてよ」と可愛げのカケラもない言い方でねだった。

 わたしのそのおねだりに、ちらりと視線を寄越した朔ちゃんは、スマホの画面をベッドに伏せてわたしの身体を跨いだ。
 馬乗りの体勢になった朔ちゃんは、わたしの顔を挟むように肘をつき、緩慢な動きで舌をべろりと出した。今からディープキスをするぞ、この舌がお前を犯すからな、と宣言されたかのような行為に、お腹の下がずくりと疼く。
 それに倣いわたしも舌を突き出せば、お互いの舌が絡み合い、いやらしい水音が耳を愛撫した。

 こんなやらしいキスできたんだ。と、朔ちゃんを侮っていたことに心の中で謝罪する。これで高一だなんて、末恐ろしすぎて……。
 
「あ?なに考えてんだよ」
「……なにも?キス気持ちいいなーって」
「そーかよ」

 キスの合間、わたしが素直に褒めると、朔ちゃんは満更でもない顔で笑った。くりくりのまん丸おめめが三日月型に綺麗に細められる。今まで見たこともない表情にときめいた。絶対内緒だけど。

「なぁ、ほんとにいいんだな?」

 朔ちゃんがそう確かめるのはいったい何度目だろう。優しい朔ちゃんはわたしが傷つくことを恐れてる。だからこうやって何度も何度もわたしの気持ちを確認してくるのだ。

「うん。朔ちゃん、優しく愛して」

 ぽろりと出た自分の言葉に本音を気づかされるだなんて、笑ってしまう。そうだ、わたしは優しく愛されたかったのだ。他の誰でもない、旭さんに。
 そう言って微笑んだわたしを見て、朔ちゃんは眉を顰めた。先ほどまでの熱が急激に冷めていくのがありありと伝わってくる。その空気にわたしも思わず眉を顰めた。

「やっぱできねぇ」

 ふぅ、と鼻から息を吐きながら、朔ちゃんはわたしの上から身体を退けた。

「……し、」
「え、なんて?」
「意気地なし!慰めてくれるんじゃなかったの!?」

 反射的に責める言葉を告げたわたしに、心外だとでも言うように顔を歪めた朔ちゃんは、「身体使わなくても慰められるだろーが」ともっともなことを言った。
 それはわたしだって百も承知なのだ。だけど今一番いらないもの、それは正論である。いらないどころか火に油。

「怖いんでしょ?優しく愛せる自信がないんでしょ?」

 油を投げ込まれたわたしの口はとどまる所を知らず、さらに朔ちゃんを挑発するような発言をする。自分で言っておいて怒られるかもしれないと身構えたが、朔ちゃんは思いもよらぬ表情を見せた。

「なんで笑うの……」
「なんでだろうなぁ?」

 聞き返されても分からないよ。困惑したわたしを見つめながら、朔ちゃんは「呼べよ」とまた柔らかく微笑んだ。
 
「え?呼ぶ?」
「おう。寂しくなったら呼べよ。何をおいても俺が駆けつけてやるから」

 慰めてくれてる。あのぶっきらぼうでつっけんどんな朔ちゃんが、とびきりの笑顔を向けて。

「なによ、かっこつけて……」
「おーおー。なんとでも言えや」

 嬉しさを不貞腐れた口調に隠してしまう。だけど朔ちゃんは気にせず余裕げな態度だ。

「嬉しいの丸わかりだぞ。耳が赤くなってる……」

 ククッと含み笑いをし、朔ちゃんの指先がわたしの耳をなぞる。「おー、もっと赤くなった」とはしゃぐ朔ちゃんを尻目に、わたしは逃げるように布団の中へ潜り込んだ。
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