その星、輝きません!
 しばらく考える……
 俺は彼女に何をしたかったのだろうか?


「なあ、山下。女性を誘った事があるのか?」

「ぶっ!この歳になれば、そういった経験もございますが……」

 山下は、明らかに笑いを堪えて言った。


「どうやって、誘った?」

「そうですね。まずは、相手の状況や気持ちを考える事ですね」

「相手の状況、気持ち?」


「ええ。少なくとの先ほどの女性は、何か大切な用事があるようでしたし、いきなり腕を掴んで、車に乗れと命令するのは、いかがなものかと…… 一つお聞きしますが、彼女とはどちらでお知り合いに?」


「長野だ。財布を拾ってもらった」

「ほう。それで?」


「カウンセラーだと言うので、カウンセリングを受けた。だが、今日も予約したはずなのに、彼女は居なかった……」


「ええ!! あはははっ」


 山下が笑いだした。同時に運転手も笑いだした。


「何が可笑しい?」

 なんだか、腹が立ってきた。俺が笑われるような事をしたのか?


「失礼しました」

 山下が笑ったままの目で、頭を下げた。


「社長、先ほどの自転車の方では?」

 運転手が指さす方を見ると、さっきの若者がスポーツクラブと看板のある建物の中へ入って行った。

「あそこが、バイト先のようですね」

 山下が言った。


 そうか!

「すぐに、あのスポーツクラブの会員手続きをしてくれ」

「えっ? もうすでに、会社の近くの高級スポーツクラブの会員になっておられますが」

「構わん」

 あの若者は、何者なんだろうか? 彼女が、あの良太という青年に会いにわざわざ来た事は間違いなさそうだ。
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