僕と彼女とレンタル家族
第45話 「家族会議4」
「はぁ……。一つずつ潰していこうか」

力強い視線で在過(とうか)を捉え、在過もまたしっかりと大迦(おおか)を見る。少しでも理解してくれる人であってほしいと期待していた在過だが、ゆっくり、ゆっくりとその期待も薄れはじめていく。

「まず、君は娘の事をどう思っているのかな?」

 ちらっと横に視線を移し、神鳴の姿を見た在過はゆっくりと視線を戻して大迦を見つめる。

「はい。僕は、神鳴(かんな)さんが好きです」

「ふむ。好きだと言うならば、なぜ泣かせた?」

「僕としては、泣くとは思っていませんでしたし、泣かせたつもりもありません。しかし、結果的に泣いたことは事実なので、そのことに関しては謝罪します」

「そのことに関しては……と言うことは、それ以外は謝るつもりはないと?」

「ありません」

「なぜ?」

「先ほども申し上げたように、今回の喧嘩……でしょうか。この喧嘩に関して、僕に非があるとすれば、冷静になれず()()()()()()()()()で怒鳴ってしまい、大切な娘さんを泣かせてしまった事です」

 我慢の限界だったのか、じっと睨んで大人しくしていた雷華が口を挟んでくる。

「だから言ってるでしょ! 神鳴ずっと一人で苦しんで悩んでいたの。さっきから聞いていたら、全部こっちが悪いみたいに言って、喧嘩はお互い様って知らないの? 相手を傷つけたら、ごめんなさいでしょ」

「ちょっと理解できません。神鳴のお母さんは、いつも喧嘩はお互い様と言いますが、僕はまだ娘さんから一度も謝られていません。僕は、泣かせてしまったことは申し訳ないと思いっています。謝れと言うなら、何度でも頭を下げましょう。お母さんの言うように行動するのであれば、娘さんが僕の恩人を消したことに対して、謝ってくださってもいいのではないですか?」

「頭悪いなぁ。最初に傷つけたのが君なの! 理解できる? 神鳴と一緒に居るのに、別の女性と連絡取り合って、しかも女の子が出てくるゲームとか持って気持ち悪い。娘は、ずっと前から我慢していたの!」

「それは……いかんな。神鳴がいるのに、浮気しとったんかコイツは。今すぐ別れなさい」

 ずっと無言だった隆敏(たかとし)と呼ばれている神鳴のおじが参加してくる。先ほどまでの会話の中で、どう判断をしたのか不明。しかし、在過に向かって放たれた言葉から結果は明らかであった。

「えっと。それこそ、おかしいと思わないんですか? 確かに女性と連絡しているかもしれませんが、それは友人や職場の先輩後輩であって、なぜそこまで責められなければいけないのかわかりません。そのことに関してずっと言われるなら、娘さんも僕が一緒に居るのに、なぜ別の男性と出かけたり電話するんでしょうか?」

「だーかーら! ほんと、馬鹿が!」

「近藤君。話を戻そうか。確かに君の主張も一理ある。勝手に君の交友関係の連絡先を消すのはダメだね。けど、本当に娘が消したのかい?」

 疑うような視線を向けられる在過は、過去に何度も味わったことのある大人からの不の感情を感じていた。まただ、この人もまた、今まで出会ってきた人と同じかもしれない。会話を重ねる事で、じわじわと篠崎家の印象が。いや、神鳴の側にいるこの大人たちが在過の大きな不安要素となっていく。

「どう言う意味ですか?」

「そのままの意味だけどね。君は、娘が恩人を消したと断言した」

「はい」

「証拠は?」

「はい?」

「娘が君の恩人を消したと言う証拠だよ。消したのを見ていたのかい? なら、消したのを見たと言う証拠を提示しなさい。近藤君……娘になんの恨みがあるのか知らないが、自分で消したんだろ? それを娘がやったことにしている。いいんだ、私もね疑うのは心が痛い。だから、娘が本当に消したと言うなら、その証拠を私にみせてくれないかな?」

 なにを言っているんだ? そんな気持ちが在過の心を黒くする。数秒、数十秒ほど沈黙する在過だが、本人は数分、数十分と時間が経過していく感覚に襲われる。在過は、携帯の連絡先から恩人のデータが消えていることに気づき神鳴に聞いた。その時の発言で、確かに神鳴は一人しか消していないと言う発言をしている。

 今回の喧嘩の詳細は神鳴だけでなく、電話越しで聞いていた雷華からも聞いているはずだ。大迦は全てを知った上で証拠をだせと言っているのか? それとも、伝わっている内容が違う可能性があるかもしれないと在過は逃げ道を失っていく。


「娘さんに聞いたら、早いんじゃないですか? あの時、娘さんはハッキリといいましたよ。一人しか消していないと」

 大迦が神鳴に視線を動かすと、在過も一緒になって神鳴の姿を見つめる。真っ赤に充血した瞳と、いつから泣いていたのか分からないが、すでにボロボロと涙を流していた。

「かん……かんな。神鳴消してないもん。在君が自分で消したんだもん。自分で消すとこ、隣で見せてくれて、それで、神鳴が悪いって責められて。殴られて」

「だそうだ」

 表情を変えない大迦が言う。また、少し微笑んが雷華が、神鳴の頭を撫でながら「がんばったね」と慰めている。在過は心の内で言葉が漏れる。

 ――嘘だろ……、なんで?
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