音楽なんかで世界は救えない
［-00:00:00］音楽なんかで世界は救えない
　───６年前、３月５日。

　少女はひとり、電車に揺られていた。

　ドア横に寄りかかり、その足元に置かれた通学鞄から花束と証書筒が飛び出している。
　スマホの画面に視線を落としていた少女は、吐息ほどの嗚咽を漏らした。　

『ご愛読いただき誠にありがとうございました。話し合いの結果、連載を続けることは困難と判断し、───』

　味気のない文字の羅列が少女の頭を巡る。
　
　理解していたつもりだった。
　それでも少女はどこかで期待せずにはいられなかった。あの物語の続きを。優しい世界の終わりを。

　少女の白い頬を流れる雫が、スマホの画面に数滴濡らした時、それは唐突に流れ始めた。
　
　無機質な歌声だった。
　少女は固く閉じた瞼を開けて、突然流れてきたその歌声の正体を確認する。

　スマホを握りしめたせいだろうか、誤作動で動画サイトを開いてしまったようだった。

　つけっぱなしだったイヤホンから、知らない曲が流れてくる。

　その動画は、薄花色の背景に歌詞が流れるだけでそっけなく、あまり出来の良いものとは言えなかった。機械音が歌詞なぞるだけの、再生回数10回も満たない、誰にも聞かれずに死んでいく曲。

　しかし少女は、その音楽に心惹かれた。

　たった３分１９秒。

　イヤホンから音楽が途絶えると、少女はその動画のコメント欄をタップした。一番上には動画の投稿者がたった一言、『未完成』と書かれている。

（この人もわたしと同じように、答えが分からずいるのだろうか）

　少女は考えるより先に手が動いていた。

『ほんの少しだけ、自分を許そうと思えました』

　投稿ボタンをタップして、少女は動画をもう一度再生させた。

　その曲のタイトルは───
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