俺様パイロットは契約妻を容赦なく溺愛する【極上悪魔なスパダリシリーズ】

「そのほうがお互いに都合がよさそうだ。いろいろとな」


 絶対なにか企んでいるでしょ!と心の中では叫んでいるのに、声にならない。

 ただただ唖然としていると、ふいに天澤さんが周りに視線を向けた。私もつられて振り向くと、マンションに戻っていく住人たちの姿が視界に入り、一旦思考が現実に引き戻される。

 いつの間にか消火作業も安全確認も終わり、戻っていいと指示が出されたらしい。見たところ火元の住人も無事で、怪我人もいなそうだ。私たちも部屋の状態を見に行かなければ。

 マンションに気を取られていたとき、突然彼の手がこちらに伸ばされる。半乾きの髪に指を絡ませられ、その手つきに不覚にも心臓が跳ねた。


「お前は風邪ひかないだろうけど、とりあえず早く避難するか。俺の家に」


 どうやら髪の濡れ具合を確認していたらしい彼は、すぐに手を離して平然とそう言った。

 風邪ひかないって、それは私がバカだという意味ですか?なんて聞くのは野暮だし、今は軽口を返す心の余裕がない。ぎこちなくも従順にこくりと頷くので精一杯だった。

 居場所を与えてもらえるのはとてもありがたいし、そのためには多少の犠牲も厭わないと覚悟したはずが、いざ本当に結婚するとなると戸惑ってしまう。

 そもそも彼が本気だとはまだ信じられなくて、私は甘い毒に侵されたかのごとくふわふわと奇妙な感覚に陥っていた。


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