紳士な御曹司の淫らなキス~契約妻なのに夫が完璧すぎて困っています

 そうこうしているうちに、お昼になり、本当に緑川さんが迎えにやってきた。


「樫間さん、お昼に行きましょう」


 堂々と店まで誘いにきたので、小沢さんが興奮している。


「婚約、おめでとうございます」


 緑川さんは瞳を柔らかく細めて幸せそうに笑った。


「ありがとうございます」


 爽やかな緑川さんの笑顔に騙された店長と小沢さんは、彼の端正な容貌にきゃあきゃあと悲鳴をあげている。しかし、当事者であるわたしの表情は微妙に引きつっていた。

 並んで歩いてクリスタルロード川崎店内にある休憩室に向かいながら、緑川さんが笑顔で言った。


「指輪、似合ってますよ」

「……どうも」


 あれから一人だけ顔なじみのお客様が飛び込みで来て、施術しているときに指輪を見られて、ずいぶんからかわれたのだ。思い出すだけでどっと疲れた。

「お昼どうします?」

「パンを買ってきたのでそれですませます」

「じゃあ、ぼくもおにぎりを買ってきます」


 そう言ってお惣菜屋さんに行ってしまった。わたしは重いため息をついた。


「わたし、何やってるんだろう……」


 緑川さんが戻って来るのを待ったあと、わたしたちは従業員専用の休憩室で今後のことを話し合った。


「樫間さんは式とか披露宴を派手にやりたいタイプですか?」

「いいえ、どちらかというとこじんまりとした式にしたいです。そもそも結婚する目的はお父さんに花嫁姿を見せてあげたいだけなので」

「そのほうがぼくも助かります。あまり大げさな式を挙げると、父と親交のある政界や財界の大物を呼ばないといけなくなるので。式の主役はあくまで花嫁ですからね」
 
 考えるだけでぞっとした。


「なるべく地味にお願いします」

「はい」
 

 それから今後の打ち合わせをして、緑川さんと別れた。

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