婚約破棄するはずが、極上CEOの赤ちゃんを身ごもりました
 お店は十四時三十分から十七時三十分まで休憩時間になっている。

 和歌子おばあ様には祖母の部屋にいてもらい、私と亜嵐さん、そして両親がリビング横の和室に集まった。

「ご挨拶が遅くなり申し訳ございません。伊集院フォンターナ亜嵐と申します。突然のお話で、ご両親様は驚かれたことと思います」

 三つ揃いのチャコールグレーのスーツ姿の亜嵐さんは頭を下げる。

 母は容姿端麗の亜嵐さんにビックリしているみたい。父も、ビシッと決めた亜嵐さんに気圧されている様子。

「い、いや……あなたのような女性を選べそうな方が、うちの娘を望まれていることに驚いています」

「一葉さんは素敵な女性です。未成年なのでまだ子どもだとご両親は心配されていると思いますが、彼女はしっかりした考えを持っていますし、私にとって最高の女性になるでしょう」

 さ、最高の女性っ……。

 大げさに話しているのだとわかっているが、頬が熱くなっていく。

「世間知らずですし……」

 母も、私のような娘が亜嵐さんのような人の妻になってもいいのだろうかと思案しているようだ。

「これから学んでいけばいいんです。一葉さんはまだ学生ですし。先ほども話した通りしっかりしています」

「一葉を愛してもらえるのかね」

 父が一番肝心なことを尋ね、私の心臓がドクッと跳ねた。

 私は聞けなかったから。

「はい。すでに私は彼女に惹かれています。この先も、会うたびに好きがどんどん増していくでしょう」

 私は彼の言葉に信じられない思いでポカンと見つめていたが、父は亜嵐さんに向かって頭を深く下げる。

「……わかりました。娘をよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします」

「私、おばあちゃんと和歌子おばあ様を呼んでくる」

 父が承諾してくれて、肩の荷が下りた気分でホッと安堵し、座布団からすっくと立ち上がった。

 こうして私と亜嵐さんとの婚約が決まった。

 一カ月後、日比谷の五つ星の高級ホテルで結納が行われた。

 私は赤地に縁起のいい柄が入った振袖を着た。これは祖母が用意してくれて、驚くとともに感動してしまった。

 仲人を立てずに略式で行われた結納で、私の左手の薬指に大学生には似つかわしくないダイヤモンドのエンゲージリングがはめられた。



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