月のひかり

「今のわたしじゃ、そう言ってもらうだけの資格はないの。こうちゃんがいいって言ってくれても、わたし自身が、自分を好きじゃないから。許せてないから……甘えるだけのことはしたくない」
 せっかく好きって言ってくれたのにはねつけるなんてバカじゃないの、と心の一部が大声を上げている。実際、言いながらもものすごく迷って、だから喉に詰まったような声で、ゆっくりとしか言えなかった。
 どれだけ嬉しくても、今は受け入れるべきではない。それがどんなに辛くても、最初に決めた通り、今は離れるべきなのだ。
 でなければ、何も変わらない。追いかけてつきまとって、可愛がられるだけで満足していた、子供の頃と。
 今、彼女にしてもらうことを選んでも、孝の優しさに甘えるだけになってしまう。それでは意味がないから。
「だから、今日でここに来るのはやめる。電話も、メールも当分しないでおく」
 やはり言うのは苦しかったけれど、決意は充分にこめたつもりだ。しばらく沈黙が続いて不安になったが、「わかった」と孝はうなずいてくれた。
 きちんと伝わったらしいことにはほっとしたものの、孝の複雑そうな表情を見て、思わず「ごめんなさい」と口をついて出そうになった。だがここで謝るのは筋違いだと思い直す。紗綾の今の気持ちは、謝りたいのではないのだから。
 考えて、再び息を深く吸い、思いをこめて口にした。なんとか、笑うこともできた。
「ありがとう、こうちゃん」
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