死ぬ前にしたい1のコト




「暑くない? 」

「……熱い」


いつか、つい最近した会話がもう違う。
返事自体も、その意味も。


「はい」


クスリと笑って、コートのボタンを外して。
「んしょっ……」って言葉があまりに不要で、可愛くて、逆に「脱ぐ」ことに性的な意味合いを感じてしまう。
するりと落ちてしまうはずなのに、ゆっくり肩から取った後、少し迷ったように目を泳がせて、椅子にそっと掛けてくれた。


「選んでくれて嬉しい」


額。


「理由が好きだってことも」


瞼。


「俺への返事が、“付き合って”っなことも」


キスされてやっと、目が閉じようとする。


「でも、他の男としたのは、許せないかも」


唇が、順に下がってる。
考えなくても分かることを考えてしまって、キスされるたびに震えるのを抑えきれない。


「あー、やっぱだめ」


てっきり耳へと落とされると思ったキスが、いつまで経っても降りてこなくて、落胆と安堵で気を抜いた瞬間。


「上書き、とかさ」


――そんな可愛いのじゃ、全然足りない。


完全に安心していた耳を甘く噛まれたのと。
そう囁かれたのと。
その次、首筋へと唇が移動していたのは、ほぼ同時。


「みのりく、」

「……他の奴がしたことないこと、したくなっちゃう」


これは、覚えてる。
この感覚はきっと――。


「……そうだよ。つけちゃった。こんなことしたがるなんて、よっぽど子供か動物かだって思ってた」


思わず手首の内側を擦ったのが見つかって、低く笑いながら口づけたばかりの首筋を撫でる。


「俺はどっちなのかな。初めてで分かんない。この前も思ったけど、好きってこうなるんだね」


照れたのか、少しまた目を泳がせて逸らして。


「ねえ、お姉さん。……ううん、一華さん」


――責任、とってよ。


「俺をこんなにした責任、とって」

「……こんなって、な……、どうやっ、ん……」

「それ、言わせる? いいけど」


上から順番に下がっていくキスは、まだ続いてる。
まるで示し合わせたみたいに開いた胸元に、わざとらしく音を立てて触れ、離れた。


「一華さんじゃないとダメになった。嘘だって、ただの口説き文句だって思う? 違うよね。……伝わってるでしょ。もう、ずっと」


ああ、息、また止めてた。
でも、吐息がこんなに浅いのに辛くない。


「こうやって、手をきゅってしただけでおかしくなる。欲しくて欲しくて堪んないのに、嫌われるのが怖くなる。可愛い反応が返ってくるのに、逆に気が狂いそうになる。でも、それが嬉しい」


――それって、好きって言うんだって。


「知っちゃったら、戻れない。それを治してくれるのも、そのすぐ後にまた俺をそうするのも一華さんだけ、だから」


だから。好き、だから。


「もうお預け、しない? 」


――Vネックにフックみたいに掛かった指を拒む理由、ある?


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