死ぬ前にしたい1のコト




『……じゃあ、俺も一緒に行くから。それなら、“このまま”じゃないでしょ』

『……うん』


「そう言って俺が手、出したら」


『……ありがと』


「掴まって、お礼なんて言うんだよ。言っとくけど、“ただ送り届けるだけのいい人”になる気なんか、なかったからね。それどころか、やるだけやって、記事のネタにして……最初は、そうだったかもしれない」


――でも、しなかった。
タクシーで、二人で帰って。
乗ってる間、この歳で未経験なこととか、ずっと心の奥底に溜めて積み上がったもの全部話して、聞いてくれて。

部屋に、着いたら。


『……本当にいいの? 一応忠告だけど、俺がどんな男かも分からないよ。酷いことするかもしれないし、その後殺すかも』

『あなたは、しないと思う』


手を繋いだまま、ベッドまでよろよろ歩いて。


『そんなの、なんで分かるの……』

『わるい人はね、最初にそんなこと言わない』


――騙して、からかって、ダメージが膨れ上がった時に。


『わるい人だって、ばらすの』


知らない。覚えてない。
私の中で、あのことがまだそんなに堪えてたなんて。
自分でも見えてなかった傷に気づいて、実くんは内側から癒してくれた。


「……俺、悪い人、でしょ。一華さんが好きになってくれて、やっと白状するなんて。それに、そう言って一華さんが泣いて、泣き顔隠すみたいにベッドに横になって、俺は」


『……ラストチャンス。本当に、していい? 』


「何か事情があって、弱って落ち込んで、ぼろぼろなんだって一目瞭然の姿見下ろして、そう言ったんだよ」


『……うん』


それでも、よかったと思う。
だって、やっぱり誘ったのも決めたのも私だ。
実くんを責めるつもりなんか、まったくない。


「記事のことなんか、忘れてた。何だか分からないけど、すごいしたくなった。他人なのに……無意識に一華さんの涙に触ってたの気づいたら」


『……じゃあ、決まり。その前に』


――お姉さんの名前、教えて?


「してる間、名前、呼びたいと思った。早く、もっと触れたいと思った」


――俺と、しよ。一華さん。
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