強引でロマンチストなホテル王に溺愛されました。
 私は朝が弱いケントの腕の中から抜け出し、借りていたスマホを手に取った。

 ベッドルームから出て、電話を掛ける。


『……はい? 依子? こんな早くからどうしたの?』

 早朝だというのにしっかりとした声のカテリーナさんが出た。

「おはようございます。すみません、こんな早くから」

 私は出来る限り落ち着いた声を出すよう気を付けながら、朝の挨拶と謝罪の前置きをする。


「その……今日の日本行きのチケット、使わせてもらっても良いですか?」

『っ……依子……。ええ、分かったわ。今日の午後の便で日本への直行便がマルペンサ空港から出るわ』

 残念そうな声だったけれど、淡々とどうすればいいのかの指示を出してくれる。


 午後からの便だし、私もまだお土産を買い損ねているものがあるということもあって午前中は予定通りガレリアで買い物することになった。

 それまではケントと一緒だけれど、最後だと思ってその時間を大切に過ごそうと思う。


『昼前になったらチケットを渡しに行くから、そこでお別れにしましょう』

 少し寂しそうな声に、カテリーナさんと別れるのも寂しいなと思った。


 でもその感情も呑み込み、私は「はい」とだけ答えて静かに涙をこぼした。
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