強引でロマンチストなホテル王に溺愛されました。
 この場で私を名前で呼ぶ人なんているはずがなかった。

 添乗員さんたちは(みなみ)さんと苗字で呼ぶし。
 名前で呼ぶほど親しい人はツアー客にはいない。

 でも、数日前――時差もあるから昨日ということになるんだろうか?
 そのときに近くで聞いたのと同じ声だったため私は驚きつつも彼を見上げた。


 黒髪にブルーグレイの瞳。
 堀が深めのイケメンは、確か日系イタリア人だと言っていたか。

 どうして彼がここに?

 いや、彼の拠点はイタリアなのだからいてもおかしくはない。


 でも、彼は今私に『やっと見つけた』と言った気がする。
 つまり、私を探していたと。

 どうして? とただただ疑問に思う。

 私と彼はあの夜、一夜だけの関係だったはずだ。
 もう二度と交わることのない人生のはずだ。

 なのに、彼は私を探しに来た。

「……ケント?」
 ただただ驚いて、あの夜だけと許されたその名を呼んでしまう。

 だが彼は怒るでもなく、ニヤリと力強い笑みを浮かべた。

 私の腰を抱き、顎をとらえて上向かされる。
 彼の唇が、強引なほどの言葉を紡ぐ。


「俺から逃げられると思わないことだ」

「……」


 その強引さに私は動けずにいる。

 ただ思う。


 私、別に逃げてませんけど!?


 と……。
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