強引でロマンチストなホテル王に溺愛されました。
　寮に戻って着替えてから仕事に向かうと、御影さんが私の代わりの仕事をしてくれていた。

「身代わりにしてごめんね！？　まさかあなたがお相手に選ばれるとは思わなくて！」

　と失礼だけど本当のことを添えつつ謝られ、私も大丈夫だから気にしないでくださいと返してひと段落つく。


　そのまま朝の仕事を終えると、私は前々から取っていた長期の有給休暇に入るんだ。

「じゃあお疲れさまでした。行ってきますね」

　その場にいた同僚達に挨拶すると、うらやましそうな声が返ってくる。


「イタリアかぁ、いいなぁ～」
「お土産期待してるからね！」

　そんな声に適当で無難な言葉を返しつつ、私は寮に戻り荷物の最終チェックをして空港に向かった。


　前日の夜に予定外のことが起こってしまったけれど、ここからは予定通りの初海外旅行だ。

　私は気持ちを切り替えて楽しみにしていたイタリアへの旅に胸を躍らせていた。


　ケントとはもう会うことはないだろう。

　彼は下見と他の契約などのために一度ここに来たけれど、後は他の人間が計画を進めていくだろうからもうこの地に来ることはほぼない。
　あと数日はいるだろうけれど、その間私はイタリア旅行だ。

　本当に、二度と会うことはないだろうからと彼の存在は早々に思い出のカテゴリーに入れたんだ。


　まさかそのイタリアですぐにでも会うことになるとは思いもせずに……。
< 50 / 183 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop