神、恋に落ちる
「神、失礼します。
いらっしゃいましたよ。どうぞ?」
黒崎はノックをして中に入り、桂里奈を中に促した。

桂里奈が中に入ると、ソファに命と命に腰を抱かれた白羽がいた。
「え?桂里奈ちゃん?
命さん、お客様って桂里奈ちゃんだったんですか?」
また白羽の身体に緊張が走る。

「うん、そうだよ。
でも、大丈夫。俺がいるからね!」
驚愕する白羽に、微笑んで安心させるように言った命。
そして桂里奈に向き直った。

「座れよ…」

本当にびっくりする程に、命は相手によって態度が変わる。
白羽には、柔らかくて優しくて、甘い。
でも桂里奈には、嫌悪感と警戒心、威圧が凄まじい。

桂里奈は向かいのソファに腰かけた。
「命さん」
「ん?なぁに?」
「桂里奈ちゃんとお仕事するんですか?」
「ううん。虫螻と仕事なんてしないよ!」
「虫螻って……命さん、そんな言い方…」

「だってぇ!白羽、わかってる?
“また”こいつが何か企んでること」
「え?」
「だろ?お前、白羽の連絡先聞いて何を企んでる?」
「え……いえ、何も……」
「じゃあ、なんで白羽の番号知りたいんだ?」
「また、飲み会したいなって!
久しぶりだし、色々話を……」
「話ねぇ……この“俺が”知らないとでも?」

「え……」

「白羽は何も言わないけど、ぜーんぶ知ってるよ?」

「命さん?」
「大学の時の強姦、こいつが原因でしょ?
こいつに誘われて、マンションに行って乱暴されたんでしょ?」
「え……し、知ってたんですか……!?命さん」
「知ってたよ。ほんっと“見かけ通り”最低な虫螻だね、お前」
命が桂里奈を睨みつけた。

「でもそれは、ちゃんと謝りました!
私も騙されたんです!」
「フッ…!!ほんっと、最低な虫螻だ。
他に言うことないの?」
「え……」

「これは、最後のチャンスだ。
他に、白羽に、言うことないの?」

「何も……」
「そう。
クロ!」
命が、黒崎に目伏せした。

「はい。
では、仲野さん、言うことないならお引き取りください」
「え?でも……」
「早く出ていけ!気色悪い!」

桂里奈はビクッと身体を震わせて、会長室を出ていったのだった。
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