私は幼馴染の双子の兄の方が好きなんです



チャイムが鳴り、女子トークはすっかりみーくんとまーくんの話で持ちきりだった。


「あのダンク、カッコよかったよね」

「私こそっと写真撮っちゃった」

「マジ? 後でこっそり送ってよ」


そんな声が教室内のあちこちで聞こえてくる。

私は制服に着替えながら、耳を澄ませていた。



みーくんもまーくんも顔は整ってる方で、身長も高い、イケメンの部類に入るけど、これまではそこまで注目されていなかった。


というのも、みーくんは常に怒ってるような雰囲気があり男女関係なく冷たくする時があるし、まーくんは下ネタ大魔神で軽いノリについていける人が少ない。

一緒にご飯食べたりする男友達はいるけど、女の子は近づきにくかったらしい。


「よく見ると、あの双子、割とイケメンじゃない?」

「それ、思った」

「しかも双子とかステータスじゃん」



皆がみーくんとまーくんを褒めている。

これを機会にみーくんとまーくんの良さを理解してもらえたなら嬉しい。

身近な人が評価され、心がホッと温かくなっていく。



私には兄弟がいないけど、もし妹とかいて表彰とかされたら、きっとこんな気持ちになるのかもしれない。



ふと周りを見回すと、ちらちらという視線に気付いた。

ちらちらとこっちをみて、耳打ちし始める。

1人2人じゃない。教室内のあちこちから見られている。



「でも、あれがいるからさ」

「あれで恋人じゃないそうよ」

「幼馴染ってそんなんだっけ? 恋人でもないのに主張強すぎない?」

「最近昼ごはん、手作り弁当食べさせてるのみたよ」

「好きでもないなら、気を遣いなさいよね」



そんなひそひそ声が聞こえてきた。

あれ、これって私のことを言われてるんだろうか。

......。

......。

あれ、どうして?



「みーくん、まーくんって呼んでるとか」

「TPOわきまえられないのかしら」

「見せつけてるんじゃない?」

「やな、女」



ボリュームを消しきれてないひそひそ話が止まることを知らない。

さっきまでみーくんらが評価されてうれしかったのに、一気に悲しくなった。





カタカタカタカタと私の耳だけに聞こえる音。

上の歯と下の歯が高速でぶつかり合う音だ。

まるでミシンの針のようにすばやく上下する。

手を見ると、制服のブラウスのボタンが上手く掴めない。

......。

......。


そうして気づいた、私は震えているということに。



そんな風に言われるのは今に始まったことじゃない。

でも、高校入ってからは一度もこういう空気にならなかった。

もう、こういうの平気だと思ってたのに、いざ直面すると怖くてたまらない。




「わ、わ、わ、わた、た、たし」


何か言わないとと思った。

けれど、言うことを聞かない歯がそれを阻害する。


私は、そんなんじゃないよ


そう言いたかった。



でも、それは嘘だ。

恋人でもないのに、幼馴染というだけでベッタリしていたのは本当だし。

みーくんやまーくんのことを考えたら、本当は距離をとった方がいいのは知っていた。

私が側にいることで、みーくんやまーくんに女の子が近づきにくくなる。

私が近づかなければ、将来を左右する運命の出会いがあったかもしれない。

それを理解した上で、一緒に居続けた。



みーくんが私の事を「葵」と呼ぶのも、昨日「学校でみーくんというのをやめろ」と言ったのも、恋人じゃないんだから気を遣うという意図があったように思う。


それは同時に私にも気を遣えというお願いであって、私はそれを無視し続けた。


みーくんのことが好きだから。


そこで距離が開いてしまうと、私とみーくんの間に何もかもがなくなってしまう気がして。

恋人になれないだけじゃなくて、幼馴染としての関係や、人と人という繋がりまでなくなってしまいそうで。

点と点を繋ぐ線がなくなってしまいそうで。


だから、私はどこでも幼馴染で居続けるという我儘を貫き通している。


......。


やっぱり、さっきの言葉は言えなくてよかったと思った。


私、そんなんじゃない は嘘でも言うべきじゃない。




雲の影が教室を通過する。

パンという手をたたく音が教室に響いた。

弥生ちゃんだ。

すると、ひそひそ話が聞こえなくなり、室内が静かになる。



「よく知らない人のことを根拠もなしに悪く言うなんて最低のすることじゃない?」


弥生ちゃんが皆に聞こえるようにワザとらしく、私に話題を振ってくれる。


「え、うん......。そうだね」


私はそう言うと、震えが止まってることに気が付いた。

弥生ちゃんが味方をしてくれている。

きっと弥生ちゃん以外のクラスの女子を敵に回したとしても、弥生ちゃんが味方だったら乗り越えられそうな気がする。

そんな安心感がある。




それ以降誰も話をせず、黙々と着替え始めた。


「ありがとう」

私は弥生ちゃんに言った。


「あんなの気にしちゃだめよ。もし次ねここになんか言ってきたら、私が相手をボコボコにしてあげるわ」


弥生ちゃんが頼もしかった。

私は昔から、弱くて、よくいじめられたりした。

そんなとき、いつも私を助けてくれたのは弥生ちゃんだ。

今日も弥生ちゃんに助けられた。


「だから一人で抱え込まずに、なにかあったら私にいいなさいよ」

「うん、ありがとう......」




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