彷徨う私は闇夜の花に囚われて


「樹くんおはよう~!」


教室の端から端まで伝わる高らかな声。


条件反射で意識がそちらへと吸い込まれてしまった。


ちらりと廊下側の後方にある自分の席から、窓側の前方の席に着こうとしている樹くんの姿を盗み見る。


中学のときよりもさらに伸びた長身。


日差しを浴びても黒々と艶やかに光る整えられた髪。


すっと通った綺麗な鼻筋に、形のいい薄い唇。


どこから見ても際立ってかっこいい樹くん。


「……おはよう」

「今日の課題、やってきた?よかったら写させてほしいんだけど~」

「ん」

「ありがとう!これまた後で返すね!」

「うん」


樹くんの隣に並ぶその子は間違いなく美人の部類に入る女の子。


相変わらず樹くんは言葉数が少ないけど二人はお似合いのように見える。


その羨ましい光景に目を離せずにいると、なぜか樹くんとぱちりと視線が交わって。


かち合った視線の元にある瞳はまるで黒真珠のようで……これ以上長く見つめていたら、私のすべてを持っていかれそうな予感がした。


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