彷徨う私は闇夜の花に囚われて



それを目にした単純な私は幾分か落ち着きを取り戻し、


「私にかまわないでください……」


距離をとるために、普段同級生には使わない口調で言葉を放った。


私の強い拒絶に呆然と立ち尽くす樹くん。


私たちの間には人が遠慮なく通れるほどの距離が広がっている。


顔をそらす私の目には薄い膜が張っていて。


……あのときとは、なにもかもが変わってしまった。


幸せな、都合のいい過去には戻れない。


「さようなら……気をつけて帰ってくださいね」


私の中途半端な優しさに、樹くんの言葉にならない声が私の背中を追う。


振り向きたくなるのを堪える。


泣き出してしまいそうなのも必死に耐える。


それでも弱い私は我慢できそうになかったから。


早歩きをしていた足は地面を蹴るようになり、帰りたくない家へと急いだ。


息も心も苦しくて、誰か私を助けてほしいと。


月明かりに照らされた道を不格好に駆けながら、どこかに救いを求めた。



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