冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
序章
 初めて足を踏み入れた彼の寝室で、観月蝶子は困り果てていた。
 まるでモデルルームのような、生活感を感じさせない広々とした寝室にはダブルサイズのベッドがひとつ置かれているだけ。

(勝手にベッドを使うわけにはいかないし、でも床に座るのもおかしい、よね)

 どうしていいかわからず入口近くで立ちすくんでいると、少し遅れて部屋にやって来た彼、有馬晴臣はくすりと笑って肩を揺らした。

「いつまでそこに突っ立っている気だ?」
「あっ、えっと……」

 蝶子がまごついていると、晴臣はふわりと彼女の身体を抱きあげた。

「まだ髪が乾いていないな」

 晴臣は蝶子の首筋に唇を寄せて、低くささやく。彼の吐息の感触に蝶子はびくりと身体を震わせた。

『新しいベッドが届くのを待たずに、今夜から一緒の寝室を使おうか』

 帰宅後にさらりと告げられた彼からの台詞のせいで、蝶子はずっと軽いパニック状態にある。ドライヤーもなんだか上手に使えず、髪はまだほんのりと湿っていた。
 彼の部屋にふたりきり、この状況に蝶子の気持ちはまったく追いついていない。緊張を通り越して、夢を見ている気分だった。
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