冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
 蝶子の上気した頬にかかるひと筋の髪を晴臣はそっと払うと、ゆっくりと彼女へ唇を落していく。重なり合うまであと数センチというところで、邪魔が入った。沙良の声が飛んできたのだ。

「その先は俺が去ったあとでやってくれ」

 正直、蝶子は彼の存在を忘れかけていた。はっとして慌てて彼に視線を向ける。

「吉永先生」

 沙良はにやりと笑って蝶子を見る。

「蝶子ちゃんがそいつに従属させられてるなら助けたいって思ったけど……実態は逆みたいだな。それなら反対しないよ。存分にそのしもべをこき使ったら?」

 背中で手を振って、沙良は駅のほうへと消えていく。その姿を見送ってから、蝶子は晴臣に向き直る。

「しもべって……すみません、吉永先生が変なことを言って」

 晴臣は蝶子の首筋をくすぐるように撫でながら、彼女の顔をのぞき込む。

「いや、なにも間違えていないな。俺は心も身体も君にとらわれていて、この鎖は頑丈すぎて永遠に断ちきれない。そして、その事実をたまらなく幸福だと思っている」

 蝶子はくすりと笑って、返す。

「そういう意味なら、私も同じです!」

 極上の笑みを浮かべて、晴臣は甘くささやく。

「君とおなかの子を絶対に幸せにする。誓うよ」

 そして、ふたりは人目もはばからずに熱いキスを交わした。
 
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