冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
 晴臣は静かでゆったりとした空気の流れる喫茶店で、蝶子が落ち着きを取り戻すのを待ってくれた。温かい紅茶と心地よいジャズの音色でパニックを起こしかけていた蝶子の頭も冷静になってきた。

「ごめんなさい、取り乱したりして」

 晴臣はあきれと安堵の入り交じる表情で、ふぅと息を吐く。

「君は時々、予想もつかない行動を取るな」
「うっ」

 蝶子はしゅんと身体を小さくする。

(大人の女性として見てほしいのに、こんなんじゃダメだ)

 晴臣は蝶子の目をしっかりと見つめながら、口を開く。

「仲がいいとは、さっきの彼女のことか? それは誤解だ」
「でも、晴臣さんがあんなに楽しそうに笑っているところ初めて見ました」

 こうなったら、もういっそぶちまけてしまおうと、蝶子は開き直る。晴臣は目を丸くしたかと思うと、くくっと肩を震わせて笑った。

「あれは営業スマイル。もういい大人だからな、職場の人間にはきちんと外向けの顔を見せるさ」

 柔らかな笑みを浮かべながら、彼は甘い声でささやく。

「俺が警戒心なく素を見せているのは君くらいのものだし、親密というのはそういう関係をさすんじゃないのか」

 親密、という単語が甘美な響きを持って蝶子の耳を刺激する。
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