独りぼっちの狼と優しい少女
ひとりぼっち狼と優しい少女        
                            海月みつき 
        
むかしむかし、あるところに森で他の動物達や人間たちに恐れられている一匹の狼がいた。彼はそのため森で一人ぼっちだった。しかし、彼はとても優しい狼だった。狩りも生きるために食べる最低限の狩りしかしないし、命を奪った場合はちゃんと供養をする。しかし、そんなことを知らない人々や狼たちは、出会ってしまったら命はないと思っている。そのため狼も必要じゃない時は人やほかの動物たちには近づかなかった。そう彼はずっと独りぼっちだった。ずっと誰にも必要とされなかった。


「ああ、俺はこんなんだからきっと皆に嫌われてしまうんだろうな」

 狼は今日も必要最低限の狩りをしながら、そう嘆くが彼は生きていくにはそうするしかない。狼は肉食だから食事をするには狩りをする必要がある。しかし、狩りをすると皆に恐れられてしまう。まさに悪循環だ。弱肉強食とはいえ、残酷なものといったらそうなってしまうのだろうか。狩りをすることでその生物の未来、もっと言うと家族までも奪うことになるのだから。狼はそんな生活に嫌気をさしていた。しかし彼はもう諦めていた。自分が他の動物と関わることもなく、一人で老いていくとそう思っていた。

「まあ、考えても仕方ないか」

 自分にそう言い聞かせるように呟くと狩りをした動物に手を合わせる。
動物に手を合わせると立ち上がった。その様子はまるで懺悔をしているよう。しばらく供養が終わると、その動物を食べる。ちゃんと綺麗に食べるのが彼にとって命を奪った者への敬意だ。昼食が終わると、食後の散歩に出かけるのが彼の日課だった。今日は天気が良かったため散歩をすると、色々な動物たちが、森で遊んでいるのが見える。彼が近づくと動物たちはおびえて逃げ出してしまうので、狼は動物たちが見えないところから見守っていた。森を開けたところに行くと、花がたくさん咲いていて小さな花畑になっている。狼はそこで寝転がって空を見上げてボーっとするのが好きだった。今日もそこでのんびりしようと向かったが、そこへ着いたとたん足を止めた。

「先約か……?」
 ここは森の中では目立つ場所なため、他の動物達がここで遊んでいたりする場合もある。その時狼が来ると、皆びっくりして逃げ出してしまうから、その動物たちがここから離れるまで隠れて待っている。今日も他の動物が来ているのかと思っていたが、そうではなかった。思わず狼は目を細めてそこにいるものを見た。

「なんだ、あの生物は」

 そこにいたのは、人間の女の子だった。しかし、狼は戸惑ってしまった。それも無理はない。人間の子供は彼にとって見たこともない生物なのだから。警戒して狼がそっと近づくとその少女は、泣いているじゃないか。なんで泣いているのか分からない狼はもっと近づいて観察しようとした瞬間、うっかり音を立ててしまった。

「あっ」

 慌てて隠れようとするものの、音に気づいた少女はびっくりして顔を上げた。そして、目が合ってしまう。

「……」
「……」

 しばらくの沈黙の後、泣いていた少女の顔はみるみるうちに晴れていき言ったのだった。

「わあ、狼さんだ! 本当に狼さんだ! 絵本の中の動物だと思ったけど、本当にいたんだ」

 大はしゃぎでそう言って狼のしっぽに抱きつこうとする少女に狼は戸惑った。普段彼は自分は恐れられる事しかなかったため、そのような反応されるのは初めてだったからである。抱きつこうとしてくる少女をかわしていくが、ついには少女に捕まってしまった。そしてまとわりついて言う。

「狼さんのしっぽ、ふわふわする~」
「やめろ、離せ。俺様はぬいぐるみじゃない」

 いくら言っても、暴れても離してくれない少女にイライラした狼はついに声を荒げた。

「いいかげんにしろ! 俺様はお前の遊び相手じゃないんだよ! 早く俺様の目の前からいなくならないと食っちまうぞ」

 怒鳴り声を聞いて、少女は一瞬びっくりしたのか、おびえた様子を見せたが、すぐにまた笑顔になった。そして言った。

「わあ、狼さん言葉も話せるんだね。凄いや」

 さっき怒ったばっかりなのにまるで効果がなく、それどころか脅したのにも関わらずはしゃいでいるのを見て呆れた狼は相手にしないことにした。

「もう話にならん。好きにしろ飽きたらどっかいけよ」

 狼はなんて無鉄砲な動物なんだろうと思った。少女は狼の勝手に動くしっぽに興味津々で楽しそうに遊んでいた。
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