ちょうどいいので結婚します
 じゃあ、あの男は恋人ではなかったのか。功至は人生で一番というほど浮かれていたが、少し落ち着いた頃に、千幸がよく一緒にいる男の事を思い出していた。

 心を許しているように見えたが、親族とか、昔からの知り合いだとか、そんな可能性を考え気持ちを納得させた。何より、千幸は《《自分との》》結婚に乗り気なのだから。

 あまりのことに、自分はもう死ぬのではないかと思ったが、多華子の言うように長生きすれば千幸と過ごす時間が増えるというのを胸に、死にませんようにと祈った。

 結婚するということは、自分のことを不快に思っていないということだ。何とも謙虚な発想ではあるが、まさか、自分を好き……とかそこまで自惚れられる状態にはなかった。

「でも、もしかしたら、ちょっとくらい、好き、とか?」

 期待せずにはいられなかった。休み明け、当然職場で会う。千幸はどんな顔をするのだろうか。はにかんだ笑顔が思い出され、功至は一人赤面した。

「食事を誘うなんて、当たり前のことになるんだ。嫌々じゃなくて。断れないからじゃなくて、それが自然だから」

 早速、休み明けの昼休憩は彼女と行こう。何なら夕食も一緒でどうだ?

 長年の募らせた想いがこんなかたちで成就するとは思わず、功至は一人あれやこれやと、千幸に会った時のことを考えていた。

 嬉しいと伝えるつもりだった。ずっと、好きだったから。きっといつもより、自分に対する千幸の態度は柔らかなものであるだろう。そう期待した。
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