ちょうどいいので結婚します
 千幸は功至と出会った頃のことを思い出していた。淡い期待がもっと明確なものになる情報はないかと探しに行ったのだ。

 第一印象からとても好感度は高かった。それは千幸だけが持つ感情ではなく、男女問わず、もっと言えば老若男女好感を持つタイプではないと思う。

 千幸にはそれに加え、憧れの職業である公認会計士という人でもあった。

 更に、千幸にも他の人と同じように、功至から積極的に話しかけてくれていた。

 にも関わらず、千幸はうまく返事が出来なかった。戸惑っているうちに、向こうも困った様な笑顔を返してくるようになった。恐らく、功至は千幸に話しかけることがあまり好ましく思わなくなったのだろうと千幸は思っていた。

 かと言って、全く無視することもなく皆で話していたら必ず話にまぜてくれた。


 千幸はここまで思い出して、やはり淡い期待以外は出来そうになかった。

 嫌われてはいない。だけど、格別に好かれているとは到底思えなかった。なぜ功至は自分との結婚話を受けたのだろう。

 毎日顔を合わせてはいるが『乗り気』とは思えない程度の関わりしかなかった。

 未だに夢のようだった。

 だからといって、夢ではないのだ。功至が自分をどう思っているか、功至にはどう映っているか、自分でいいのか、初めての感情に戸惑いながらもテキストを開く。憧れで済ませられないのは、資格も恋も同じだと一人で納得した。
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