幼馴染の恋
「大事な話がある」

 そう幼馴染に言われたのは昨日の夜の出来事だった。受験勉強がひと段落して少し一服しようと考えようと思っていたところにちょうど電話がかかってきた。

「もしもし、おうどうしたよ」
「いーちゃん。こんばんは。ちゃんと勉強していたの?」
「していたよ。なんだお前、さぼっていたと思ったのか?」
「でも電話、すぐに出たよね?」
「た、たまたま少し休憩していただけだよ」
「本当かなぁ? さぼってばっかだと私と同じ大学に行けないよ。いーちゃん私と同じ大学いきたいんだよね? 今の成績じゃ難しいって言われたんでしょ」

 うるさいなというと電話越しでもくすくすと楽しそうに笑っている声が伝わってきた。そんなこいつの声を聴いてつられて俺も笑ってしまう。ああ、なんて快適なんだ。こうして幼馴染と喋っていると疲れが癒される。いつものおさがわせ連中とは違うなんて平和なんだと思う。

「それで、要件っていうのは俺がちゃんと勉強をやっているのか確認するためにわざわざ電話したのか?」
「違うよ~本題はこっから」

 そういうと少し間を開けて彼女は言った。

「大事な話があるんだ」
「話って? 別にここで話してくれてもいいんだぜ」
「ううん。ここじゃだめ。直接会って話したい」
「そうかわかった。じゃあ待ち合わせはどこにする?」
「いつもの公園で午前九時。午後は開いていないでしょ」
「お、おう」

 やっぱり幼馴染には分かるか。ていうか。最近よくあいつの家に行っているもんな。そう言って通話を切った。

そして次の日、 公園は平日のまだ午前中の浅い時間だというのに遊んでいる子供や、学生達でにぎわっていた。夏休みのまっさだなかだからだろうか。俺はベンチに座って幼馴染のことを待っていた。

「大事な話か……」

 いったい何の話なのだろうか。電話越しだったが、その彼女はいつもと違う雰囲気を醸し出していた。俺はこの幼馴染を長らく見てきたが、あんな彼女の様子は初めてだった。いつもの談笑ではない。そんなことは容易に想像できた。

「ごめん~待った?」

 聞きなじみのある声でふと我に返る。声がした方に顔を向けると走ってこちらへと向かってきていた。

「全然、待ってないよ。俺も今来たところだ。ほれ」

 俺はそういうと自販機であらかじめ買っておいたお茶を彼女に渡した。まだ温まっていなくてよかった。それを受けてると嬉しそうに言う。

「えへへ。ありがとう」

 いつもとは違う彼女の雰囲気に少し気まずさを感じていた。やっぱり少し緊張しているのだろうか。

「少し歩こうか」
「えっ」

 そういうと驚いた様子でこっちを見る。

「散歩だよ。いつもしてるようにまったり散歩しようって言ってんだ」

 少し歩けば彼女の緊張も解れるだろう。そう考えたのだ。

「しかし、この公園も昔と比べてだいぶ変わったもんだ」
「そうだね。昔はただ広いだけの公園だったのに、今は桜の苗を植えられたり、総合運動場ができたりして一気ににぎやかになったよね。それがうれしいような寂しいような少し複雑な気持ちだよ」

 そういうと彼女は目を細めた。小さいころからこいつとよく歩いた公園の散歩道。よく考えたらずっと一緒だった。小学生の時も中学も、そして今も、昔から同じ背丈で、同じペースで、同じ歩幅で彼女と並んで歩いていた。嬉しいときも、寂しい時もいつも一緒だった。

「別に寂しくないだろ。どんなに変わっていってもこの公園は公園のままなんだからな」
「うん、確かにそうかもね」

 そういうと笑った。今日のこいつはよく笑う。いつもと雰囲気も違うような……

「あ、お前もしかして今日香水をつけてる?」
「え、分かった? えへへ、いい匂いしているかな」
「いや、いつものババ臭い匂いのほうが俺が好きかな。なんていうかお前らしいじゃん」
「もう、私は言いなれているからいいけど、他の女の子の前ではそういうこと言っちゃだめだからね、デリカシーのかけらもない」
「ええ、こういうのって正直に言った方がいいんじゃないのか」
「ちゃんと気を使った方がいい場合もあるの。女の子はデリケートな生き物なんだから」
「お前が女の子を語りますか」
「あーそれどういう意味?」

 そんな談笑をしながら公園を回っていた。そして。
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