惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
12:緑色の瞳の女
「失礼致します」

 ダンさんが持ってきた椅子は、深紅で染め上げられ黄金色で縁取られた、まるで皇帝が座る玉座の様な立派な椅子だった。

 ・・・え、そんな椅子しかなかったの・・・?

 ダンさんは、姿が隠れるくらい大きな椅子を軽々と持ち上げ、ルーカスの机の隣に置いた。

「とりあえず、ここら辺でいいかな・・・。さあ、どうぞお座り下さい」

「凄い・・・立派な椅子ですね・・・」

 触るのも(おこ)がましいような椅子なのだけど、本当にこれ座っても大丈夫・・・?
 本当に椅子・・・?飾りじゃなくて・・・?
 
 恐る恐るその椅子に座ってみると、見た目よりもフワッとしていてクッション性は抜群。
 なんとまあ座り心地は良いのだけど、私の心境は心地よくは無い。

「ええ、これ皇室の方を招いた時用の椅子なのですよ」

 しれっと言ったダンさんの言葉に、私は椅子からずり落ちそうになった。

 ・・・皇室・・・?
 そんな高貴な方がここに来る事があるの・・・?
 いや、それよりも・・・

「そんな椅子を私が使って大丈夫ですか・・・?」

「もちろんです。逆に下手に中途半端な椅子を用意したら俺が大丈夫じゃないです。ルーカスに殺されますよ。あはははは」

 ダンさんは笑っているけど、目はなんだか虚ろな気がする。
 ダンさんとは今日初めて会ったけど、ルーカスとのやり取りを見る限り、色々と苦労しているんだろうな・・・。

「エリーゼ嬢は、この屋敷に来るのは初めてですよね?」

「はい・・・本当に立派でびっくりしました・・・」

 もう凄すぎて訳が分からない程に・・・。
 この御屋敷も・・・ルーカスの人脈も・・・。

「今後の生活で色々と不安な事はあると思いますが、この屋敷には住み込みで働く使用人も多いので、何か困った事があれば何なりとお申し付けください」

 ・・・ん?
 今後の生活・・・?
 ダンさんは一体何の話をしているの・・・?

「本当ならルーカスの執務室よりも、エリーゼ嬢の部屋に御案内したいところですが、多分ルーカスが自分で案内したいのでしょうね」

「・・・私の部屋・・・?」

「・・・は!!もしかしてこれは内緒だったかも・・・。エリーゼ嬢、今のはどうか聞かなかったことに・・・」

 ダンさんは両手をふりながら、慌てた様子で誤魔化そうとしている。
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