惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
0:惚れ薬は使わない(ルーカスside)
 遡ること一週間前・・・・・・


「ルーカス、惚れ薬って知ってる?」

 俺の目の前に座るユーリは、突然そんな事を告げると、手にしているティーカップを口元へと運んだ。

 この女は数分前、何の連絡も無しに俺に話があるからと、旦那の制止を無視して強引にこの執務室へと入ってきた。
 追い出そうとも思ったが、「じゃあエリーゼがどうなってもいいの?」と意味深な事を言い出したので、仕方なくお茶の相手をするはめになっている。

「・・・知らんが・・・その名前からして、相手を惚れさせるとかいう薬か?」

 俺の解答は正解だったようで、女は不気味な笑みを浮かべて頷いた。

 突然何をしに来たのかと思ったが・・・こんなくだらない話をわざわざするために来たのか・・・?

 俺はユーリに軽蔑にも似た冷たい視線を送り続けながら口を開いた。

「だが、そんな物がこの世に存在するはずが無いだろう」

 そんな物があれば未婚の男女が群がるだろうが・・・考えるだけ無駄だ。

 例えば、この世界に魔法使いなんて存在がいれば、惚れ薬があっても不思議では無い。
 しかし、魔法もあくまで空想の世界の話であって、現実には不可能だ。

 ・・・魔法といえば・・・俺の愛するエリーゼは、未だに魔法の存在を信じている。
 そんなエリーゼを喜ばせたくて、首都の夜空に上がる花火は、魔法によるものだと言ってしまった嘘を、彼女は今も信じているようだ。本当、可愛いな。
 そんな純粋なところもエリーゼの魅力の一つだ。

「ふふ・・・そう思うでしょ?でもね・・・あるのよ。ここに・・・」

 何処から取り出したのか、ユーリは手に持っている小瓶を俺に見せた。
 その中には何か液体が入っている様だ。

「なんだそれは?」

「惚れ薬よ」

 ユーリは小瓶を俺に向けながら、不敵な笑みを浮かべているが・・・まさかこの女、本気で言ってるのか?
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