惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
16:彼女を守りたい(ルーカスside)
 俺は剣を構えたまま、後ろにいるエリーゼの姿を確認した。
 先程までなんとか意識を保っていた様だが、今はスヤスヤと穏やかな表情で眠っている。恐らく何らかの薬品を嗅がされたのだろう・・・今のところ体に害は無さそうだ。
 ・・・だが、彼女が掴まれていた腕には痛々しい痣がくっきりと残っている。

 くそっ・・・!もっと早く見つけられていれば・・・!

 彼女を追いかけて執務室を飛び出した俺は、大通りへ向かい、人混みを掻き分けながらエリーゼの姿を探したが見つけることは出来なかった。
 ただ、覚えのある香水の香りに、不吉な予感がした俺はその残り香を頼りにこの場所へと辿り着いた。
 あと少し遅ければエリーゼは・・・。

 その先を一瞬でも想像してしまった俺は、怒りで血管が焼き切れそうになった。エリーゼをこんな目に遭わせた連中の首を1人残さず跳ね飛ばしてやりたい・・・そんな衝動に駆られ、剣を握る手に力が入った。
 だが・・・眠っているとはいえ、エリーゼの前で人を殺める訳にはいかない。
 その思いだけが、ギリギリの所で俺の人としての理性を保たせていた。

「お前・・・もしかして、赤い閃光か・・・!?」

 スカーレットの隣にいる男の1人が、目を見開き震える手で俺を指さしている。
 ・・・誰が言い出したかは知らんが、そんな風に呼ばれてる事は知っていた。・・・はっきり言って余計なお世話だ。
 『せっかち男爵』やら『赤い閃光』やら、なんでそんな呼び名をいちいち付けたがるのか意味がわからない。
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