惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
「あ・・・あ・・・」

 なんとか上半身を抜け出し、顔を上げたスカーレットは俺の姿を見て恐怖に慄いている。
 女性を痛めつける趣味は無い・・・だが、この女はエリーゼを殺そうとした・・・。
 俺は顔の感覚が無くなるほどの怒りを滲ませ、スカーレットに手を伸ばした・・・が、新たに現れた人物の気配を察して、俺は手を止めてその人物を睨み付けるように顔を上げた。
 そこにはつい先程、会話を交わしたジルがいつもと変わらない笑顔で立っていた。

「いやあ、久々に見たなぁ。目にも止まらぬ速さで敵を次々と倒して行く姿・・・君のその真っ赤な髪と血塗られた剣が光の速さで移動する・・・まさしく赤い閃光だね。血飛沫(ちしぶき)が無かったのが少し物足りなかったけど」

 ・・・赤い閃光ってそういう由来だったのか・・・。まさかコイツが名付けたんじゃないだろうな。

「ジルバート様!!お助け下さいませ!!!ルーカス様が急に襲いかかってきて・・・!!」

 スカーレットは必死になってジルの足に縋り付くと、涙を流しながら助けを求めた。

「ああ、それは不運だったね・・・。彼は今ちょっと傷心中で気が立っていてね・・・」

 ジルは気の毒そうにそう言うと、スカーレットに同情の視線を送っている・・・ておい。余計なことを言うな。

「安心するといい。スカーレット嬢の事はこちらで保護しよう。ちょうど聞きたい事が色々あるから、皇室まで一緒に行きたいと思ってたんだ。」

 優しく微笑みながら淡々と話しをするジルに、スカーレットはあからさまに動揺しながら、掴んでいたジルの足から手を離した。

「あ・・・だ、大丈夫ですわ!!1人でも帰れますので・・・」

「そうか・・・一緒に来てくれないのか・・・残念だよ・・・。だけど、ここで僕が君を保護しなかったら、そこの殺人鬼みたいな男に何をされるか分からないよ?」

 ジルは俺の方をチラチラ見ながら、まるで他人事のようにそう言うと、スカーレットはビクビクしながら俺に視線を送ってきた。未だに媚びるようなその視線にイラついた俺はキツく睨み返すと、スカーレットは恐怖に顔を歪ませた。

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