惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
「ああ、すまない・・・ついエリーゼが可愛すぎて自制する事が出来なかった・・・。すぐに食事を用意しよう。体の方は大丈夫か・・・?」

 そう言うルーカスの表情は分からないが、明らかに声のトーンが下がっている。どうやら反省してくれている様だ。
 そして私も自分の体の状態を再確認する。

「だい・・・じょうぶじゃない」

 正直、体が尋常じゃ無い程重い・・・。これ、起き上がれるのかしら・・・?

「エリーゼ、そのまま少し待っていてくれ」

 ルーカスはそう言って起き上がり、ベッドから降りて部屋の扉の方へと向かった。扉が開き、閉じた音を聞いて私は顔を上げた。
 ようやく1人きりになったその部屋で、私は「はあっ・・・」と溜息をつき、ゴロンとベッドの上で大の字になった。

 目を閉じて、ここ数日の出来事を思い起こす。
 ずっと膠着(こうちゃく)状態だった私達の関係は、この3日間で激変した。
 あの惚れ薬によって・・・。
 結局、惚れ薬は偽物だったけれど、散々振り回された私達は幼い頃の誤解を解く事が出来て、晴れて恋人同士となる事が出来た。・・・いや、もう夫婦だった・・・。

 私は左手を目の前にかざした。もう手袋を着ける必要の無い左手の小指の傷跡を見つめた。
 あの時、もしも小指を失わなければ・・・狼と遭遇しなかったら、私達の関係はどうなっていたのだろうか・・・?
 ルーカスから直接告白されていたら・・・彼が迎えに来たあの日、プロポーズを受け入れて結婚していたのかもしれない。
 そしたら今頃、私達の間に子供がいたりして・・・

 思わずそんな妄想をしてしまい・・・
 
 ガチャリ・・・

 扉が開く音で、ドキリと心臓が跳ねた。
 熱くなった顔を見られまいと、私はシーツに顔を埋めた。そしてチラリと目だけ覗かせて様子を伺う。

 開いた扉から、ルーカスが大きなテーブルワゴンを押して部屋に入ってきた。その上には肉料理、パン、サラダ、フルーツがこれでもかというほど盛られている。

 それを見た瞬間「ぐぅぅ・・・」と私のお腹が主張する様に鳴った。それも仕方がない。だって昨日の朝から何も食べてないんだもん!!時々ルーカスが唇越しに飲み物くれたくらいで、何も食べれなかったんだもん!!

 うう・・・よだれが止まらない・・・けど・・・体が動かない・・・。

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