惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
6:手作りクッキーを食べたい
 私達が首都へ向けて出発して、ちょうど1時間程が経った。
 見通しの良い高台に辿り着き、そこで少し休憩を取ることにした。
 コールから降りて、遠くの景色を見渡していると、広大な街並みが見えた。
 
「ねえねえ!あれって首都なの?」

「ああ・・・もう見えているな。このペースだともう1時間程走れば着くだろう」

 私が首都に遊びに行った事があるのは一度だけ。まだ6歳の時だった。
 村では見たことがない様な、高くて大きい建物や、お洒落な洋服屋さん、綺麗な宝石を身に付けた上品な夫人達、何もかもがキラキラと輝いて見えた。
 村から出ていく成人した女性達を見送りながら、私もいつか首都で暮らしたいと夢見た時もあった。

 今はもう、そんな事を考える事もなくなったけど・・・

「あれ?」

 私が振り返ると、いつの間にかルーカスとコールはその場から姿を消していた。

 見知らぬ土地で急にひとりぼっちにされた心細さから、木が生い茂る中へと足を踏み入れると、少し離れた所に居るのが見えた。
 どうやら湧き水があるらしく、コールに飲ませているようだ。

 私もそこへ歩いて行き、湧き水の前でしゃがみ、両手で水をすくって口に含んだ。
 ずっとルーカスに抱き抱えられていたからか、すっかり火照っていた私の体に、冷たく冷えた水が染み渡った。

 今日は日差しが強く、気温もいつもより高いようだが、この場所は生い茂った木のおかげで木の葉が日光を遮り、良い避暑地となっている。
 まさに休憩するのには絶好の場所だ。
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