惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
「こんな所でお会い出来るなんて・・・きっと神のお導きによるものですわ!」

 ・・・知り合いに偶然会うことが神の導きとか、どんだけ暇な神様なの・・・。

 いかにも都会育ちに見える令嬢はうっとりするような眼差しを向けながら、ルーカスの所へ駆け寄ってきた。
 私はチラリとルーカスの顔を見てみたが、近寄ってきた令嬢に冷え切った視線を送り、物凄く不機嫌そうである。

 これは・・・ルーカスが心底めんどくさいと思っている時の目だ・・・。

 私の視線に気付いたルーカスは、一瞬で柔らかい笑みに表情を変えると、私の隣りに歩み寄り、私の肩を抱くように手を添えた。

「スカーレット嬢、ちょうど良かった。紹介しよう。私の婚約者のエリーゼだ」

 そう紹介され、私はサーっと血の気が引いていくのを感じた。
 なんかもう・・・確実に外堀埋めてきてないかな・・・?

「・・・は?・・・こん・・・やく・・・・・・しゃ・・・?」

 スカーレット嬢はルーカスの言葉に、信じられないというような顔をして立ち尽くしている。

 しかし、すぐに憎悪の眼差しで私を睨みつけると、私の身体を上から下まで品定めをするかの様に目線を動かし、勝ち誇った様に目を細めた。
 明らかに人を馬鹿にする様なその態度に、私の頭の中には「悪役令嬢」という単語が浮き上がった。

 私はもちろん婚約者なんて認めた訳では無い。
 ・・・が、スカーレット嬢が私を見るその挑発的な視線に若干カチンとくるものがある。
 私よりもずっと若いであろう小娘に・・・スタイルも気品も負けているのは認めるが・・・舐められたまま引き下がるのも癪である。

 私はスカーレット嬢へにっこりと余裕の笑みを作って差し上げた。
「初めまして。ルーカスの婚約者のエリーゼと申します」

「エリーゼ・・・!」

 スカーレット嬢への牽制を込めた私の言葉に、誰よりも反応し歓喜の声を上げたのはルーカスだった。
 ルーカスは感動した様子で瞳をキラキラと輝かせて私を食い入るように見つめている。
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