惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
9:「あーん」がしたい(ルーカスside)
――――エリーゼの口元に付いたクリームを親指で拭い、それを舐め取った。
 その甘美な甘さはクリームの甘さか、彼女の唇の甘さなのか・・・。

 エリーゼは一生懸命にパンケーキを切り分けている。
 すっかり歪な形になり、原型を見失ったパンケーキを見て俺は必死に笑いを堪えていた。
 こういう少し手先が不器用な所も彼女の魅力の一つだと思っている。
 なんというか・・・ほっとけなくなる・・・。

 しかし下手に手を出すと、彼女の自尊心を傷付けてしまうかもしれないから、何も言わずにそっと見守っている。
 何よりも一生懸命切り分けている彼女の姿は見ていて可愛い。
 切り分けたパンケーキを頬張るたびに、とろけそうな笑顔を見せるエリーゼをずっと見ていたいと思ったが、この後の予定を考えるとそういう訳にもいかない。

 俺も目の前のステーキを切り分け、一切れ食べてみる。
 ミディアムレアに焼かれたその肉は柔らかく、噛むと口の中に肉汁が広がり、染み込んでいく様に溶けていった。

 ふむ・・・うまいな・・・なかなか良い店だ・・・。

 飲食業など興味は無かったが、こういう店へ投資してみるのも良いかもしれないな。
 結婚したら時々エリーゼとカフェ巡りを楽しむのも悪くないな。

 あれこれと妄想しながら、ついいつもの癖で次々と食べ進めていき、残った一切れをフォークで刺した瞬間、ふと思い出した。
 さっきエリーゼが肉料理も食べたくなったら俺の肉を取り分けるという話をしていたが・・・。

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