消えた未来
 ちゃんと手当できるかどうかよりも、そのことに対する恐怖が大きくて、私は動けなかった。

 目の前で少女がうつ伏せになったままなのに、私の足は地面に張り付いていた。

「里歌、大丈夫か」

 すると、金髪の高校生がその少女の傍にそっと座った。

 私はその金髪に見覚えがあったけど、今の優しい声は知らなかった。というか、教室で聞いた声とは結びつかなかった。

「ユウ君……」

 起き上がった少女は、若干涙目になっている。

 それにしても、さっき彼が少女の名前を呼んだ時点で思ったけど、二人は知り合いだったらしい。

 彼に小学生の知り合いがいるのは驚きでしかないけど、小学生が彼を怖がっていないことも意外だった。

「よし、また泣いてないな。偉いぞ」

 彼が少女の頭にそっと手を置いたことで、少女は涙を堪えようと上を見ている。

「怪我は? 手のひら……立って、膝も大丈夫そうだな」

 少女の怪我を確認しながら、服の泥を払っていく。その動作はまさにスマートで、続いていく意外な光景から目が逸らせなかった。

「まだ痛いか?」

 涙目なところを見ると、痛いのを我慢していると思ったけど、少女は首を横に振った。

 それを見て、彼は穏やかに微笑んだ。

 もはや目を疑うレベルのことが、目の前で起きている。

「里歌ちゃん、大丈夫?」

 すると、先に走っていった子が戻ってきた。少女が転んでしまったことに対して罪悪感を抱いているみたいだ。
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