消えた未来
「体調を崩したわけじゃないんですか?」

 お姉ちゃんは、久我君の足元に近寄る。

「ちょっと足に力が入らなくなったくらいで、他に異常はないです」

 そこまで距離はないはずなのに、二人が会話しているのが、遠くでされているみたいだ。

 なぜかわからないけど、久我君が動けなくなったのが、自分のせいのような気がしていた。

「すぐに車椅子を持ってきます」

 お姉ちゃんは立ち上がると、私の横を通っていくとき、軽く肩を叩いた。

 久我君と二人にされても、私は動けなかった。

「織部さん」

 久我君に手招きをされて、一歩ずつ、ゆっくりと近付く。

「驚かせてごめん。こういうの、たまにあるんだ。だから、気にしないで」

 きっと、私の顔に考えていることがすべて現れていたのだろう。

「……でも、私がここに来なかったら……ここで話すことにならなかったら……こんなことには」

 そこまで言ったとき、久我君が私の手に触れた。

 そのとき、私は久我君の顔をちゃんと見れていなかったことに気付いた。

 久我君のほうこそ、申しわけなさそうな顔をしている。

 そんなつもりで言ったわけではなかったけど、今はなにを言っても、久我君にその顔をさせてしまう気がした。

「話してこいって言ったのは蘭子だし、こういうことがあるってわかっていながら出歩いたのは、俺だ。だから本当に、気にしなくていい」

 そして優しく首を傾けた。
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