消えた未来
「星那こそ」
「お母さんの荷物持ってきた」

 星那は重そうな袋を見せてきた。

 それを見て、由希子さんもここに入院していたことを思い出した。

「その顔、お母さんのこと忘れてたでしょ」

 その通りだけど、頷けるわけもなく、苦笑いをして誤魔化す。

 星那は私に近付いてきて、ネームプレートを見た。

「久我と会ったんだね。ちゃんと話せた?」
「うん」

 迷わず答えると、星那は微笑んだ。

「よかった」
「星那、教えてくれてありがとう」

 星那は私の肩を何度か叩くと、去っていこうとした。

「ちょっと待って、私も由希子さんのところに行くよ」

 そして、私は由希子さんのお見舞いに行ってから、家に帰った。

  ◆

 翌日から、暇さえあれば久我君の病室に行くようになった。

 大学のほうは、講義が終わるとすぐに帰っていたから、佐倉さんと大原さんとは気まずいままで、月渚ちゃんと話すこともほとんどなかった。

 それくらい、私は久我君に時間を使っていた。

 といっても、付き合おうという話にはなっていなかった。

「なあ、いつになったら名前で呼んでくれる?」
「……久我君、しつこいよ」
「じゃあ、俺が名前で呼ぶのは?」
「心臓もたないので、却下で」

 名前呼びの話をしたり。

「織部さん、手出して」

 手を繋いで歩いたり。
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