消えた未来
「あの侑生が誰かを嫌うなんてことがあるんだな」

 少年は意外だと言わんばかりの顔をしている。それと同時に動きが鈍ったのか、少年が操っていたボールが地面に落ちた。少年は改めてリフティングを始める。

 しかし、私からしてみれば、少年のその反応が信じられない。

「侑生は誰とでも仲良くするような奴だから」

 もっとわからなくなった。私が知っている久我君と、少年が話している久我君が別人だと思ってしまうくらいに、混乱していた。

「お姉さん、侑生になにかしたの?」

 恐らくただの興味本位で聞いているのは見ればわかるから、まともに答える必要はないと思う。誤魔化すことだってできると思う。

 でも、そんなことをしたら、あとで気になって後悔してしまうような気がした。

 なにより、本当の久我君を知っている彼に聞けば、なにか答えが見つかると思った。なにに対する答えなのかは、わかっていないけど。

「……つまらない奴って言われた。自分がないって、呆れられた」

 適当に相槌を打つ少年を見ると、正直に言ってしまったことを後悔する。

 そもそも、小学生に答えを求めようとしたのも、おかしな話だったんだ。

「お姉さんには夢とかないんだね」

 今の話はなかったことにして帰ろうとしたとき、少年がボールを手で取り、そう言った。
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