消えた未来
  ◆

 翌朝、教室に入ったら、久我君はもう来ていた。まだ眠たいのか、うつ伏せになっている。

 いつまでも久我君の前に座るのには慣れなくて、緊張しながら椅子を引く。今日にいたっては、睡眠の邪魔をしてはいけないと、余計に慎重になる。

「なあ」

 私の緊張はどうやら無駄だったみたいで、久我君は体を起こしていた。

 久我君の周りには私しかいないから、私に声をかけたみたいだ。

「士があんたのこと心配してたけど、昨日なにがあった?」

 どう答えればいいのか、わからなかった。

 素直に言ってもよかったけど、なんとなく、やりたいことの見つけ方や久我君のことを話していたなんて、知られたくなかった。

「士と話したのって、あんただろ? ちゃんと名乗ったらしいし」

 答えなかったから、私が心当たりなくて困っていると思ったのか、そう確認された。

 ここで反応しないということはできないから、小さく頷いた。

「どうやってやりたいことを見つけたらいいか教えたら、落ち込んで帰ったって。士、自分が悪いことをしたと思ってた」

 全部知ってて、あんな質問をしたのか。私の悩んだ時間を返してほしい。

「士君は関係ないです。ただ」

 今度は、お母さんのことを話すかどうかに悩み、言葉を止めてしまった。
< 30 / 165 >

この作品をシェア

pagetop