消えた未来
 なにを隠しているのか気になったけど、今の会話の流れで、聞くことなんてできるわけがなかった。

「あんた、思ってることが顔に出やすいって言われたことない?」
「ないです」

 どうして久我君がそんなことを言うのかわからないまま、素直に答える。

「俺の秘密が気になるって書いてある」

 久我君は笑いながら言った。それは、少女たちに見せていた笑顔と同じもので、考えていることが言い当てられた恥ずかしさよりも、その笑顔を向けてもらえた嬉しさのほうが強かった。

 その笑顔から目が離せなかった。

 すると、久我君が困ったように顔を顰めた。

「そんなに俺の顔を見ても、教えないからな?」
「そ、そんなつもりじゃないです」

 言葉に詰まらせながら言い、目を逸らす。

 あまり認めたくはないけど、久我君の笑顔に見とれていたことが、そんなふうに受け取られたのは、ちょっと悲しかった。

「ならいいけど」

 久我君は立ち上がった。

「もうすぐチャイムが鳴りますよ?」

 久我君と普通に会話ができたからか、自然とその言葉が出てきた。久我君は驚いているけど、たぶん、同じくらい私も驚いた顔をしていると思う。

 だからか、久我君はまた笑った。
< 32 / 165 >

この作品をシェア

pagetop