酔いしれる情緒



「……、はぁ…」





自然と出た溜め息。



見つめる先は、ポスターに映る彼。






………実際のところ、



昨日のあの行為に拒否を示したのは、勢い任せにされるのが嫌だったからで(しかも酔っ払いに)。


春に身体を触られたことに対する" 嫌だ "の文字は浮かばなかった。




彼が酔っていなければ、

ただ普通の日常で起きた出来事なら──…




私は、あの続きを求めていたのかもしれない。





この顔も、細身で背の高い体型も、
ふわふわと柔らかい髪も、色素の薄いその目も。



全部がこの彼と全く一緒だというのに、




一ノ瀬櫂と桜田紬


デキているのが本当なら



どうか別の人であってほしいと、切実に春と一ノ瀬の繋がりを考えたくない自分がいる。




モヤモヤと複雑に揺れ動く心。





『2人、付き合ってるんすかね?』





しつこく脳内でこびりつく言葉。






あぁ、もう……ムシャクシャする。






同居を始めてから数ヶ月。


私はまだ、


初恋の相手である彼のことを詳しく知らない。

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