酔いしれる情緒
「……今日、仕事は?」
「休みだよ。」
「(だからか……)」
だから、今この時間帯に家にいるんだ。
いつもならもういないのに。
「凛は?」
「あるよ」
「え、やだ」
やだって。
「そろそろ準備しなきゃだから」
離してと言わんばかりに春の胸板を押す。
触れるとそこは男だということを分からせられるような、女の私とは全く違う感触だった。
「……春」
「……………」
離す気はないらしい。
ギュゥ…と再び抱きしめられたことにより、
春のぬくもりでいっぱいになる。
拗ねたように軽く唇を尖らせる春に溜め息が出た。
「遅刻するから」
「休みなよ」
「無理」
私だって……休めるものなら休みたい。
家でゆっくりしていたいし、
……まだこの空間で寝ていたい気もする。
春の傍は意外にも心地よく眠れるということを知ったから。
「離したくない…」
寂しげな顔をする春に一瞬心が揺さぶられた。
私だって離れたくない。
離さないでほしい。
未だに心臓は激しく動いているけど、もうバレてもいいかと思った。
だけどその思いを胸に秘めて
「あっ」
グルリと体勢を変え、春の腕の中から逃げた。
悲しげな声が聞こえてきたけど、顔は見ない。
見てしまえば、きっと、この場に留まってしまう。
ベッドの端に寄り、足を下ろす。
「っ」
立ち上がろうとしたその瞬間に
うなじに柔らかい感触。
チュッとリップ音をたてられたことから、
一瞬にしてそれが何かに気づいた。
「早く帰ってきて」
春の声が耳に響く。
甘えるような
だけど男っぽい低い声
「………うん」
私はそんな彼に弱いらしい。