酔いしれる情緒


*****





──今日は特別な日になる、そんな気がする。






朝起きて、いつもより少しだけ時間をかけて仕上げた顔面。




窓から差し込む光が外の暑さを表していて、

今日は髪をまとめて行こうと思っていたのに





(あ……しまった。)





あのヘアゴムが無いことに気づく。



春に貸してたやつ。

また返してもらうの忘れてた。





(あれ以外持ってないんだけど…)





仕事中は仕方がなく髪をおろして作業していたし、まあ室内だから暑いこともなかったし。



今日は外を少し歩くつもりだから髪はまとめた方がいいと思って。





「仕方がないか…」





バンスクリップが視界に入り、とりあえずそれで髪を留める。


これ、首元が丸見えになるから外じゃちょっと恥ずかしいんだよね。仕方がないけど。暑さには勝てない。





鏡の前に立って髪の毛を整えていれば、鏡越しにキラリと光るモノが私の瞳に映る。



それは首につけられたモノ。





「──────…」





シルバーの、ネックレス。





私はそれを外すことなく、


このネックレスのデザイン、小さなお花を正しい位置に移した。





鎖骨と鎖骨の間に花咲くそれ。




私はその姿を鏡でもう一度確認してから


用意したトートバッグを肩にかけ、









「────よし。」









どこか高鳴る気分を胸に秘めた状態で家を後にした。

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