タングルド
父が「葛城敬子さん」と言って照れ臭そうに紹介してくれた。

「長女の大島雪です、そして夫の賢一です」

賢一は初めましてと言って軽く会釈をする。

「次女の花です。そして、えーっと」
花がなんて言って紹介しようかと詰まっていると「花さんとお付き合いさせていただいている大島新二です」と、爽やかに挨拶をした。

以前の不遜な態度は影を潜め普通の感じの良い青年になった。
あの頃は森川さんに愛されたくて周りを牽制していたのかもしれない。

「皆んな上がって、敬子さんが色々と用意をしてくれたんだ」

父に誘導されリビングに入るとテーブルの上には手巻き寿司や煮物、揚げ物がズラリと並んでいた。

「えええ、これ全部敬子さんが準備してくださったんですか?あっ、敬子さんって呼ばせていただいても良いですか?」

「ええ、そう呼んでください。私の方は」

「気軽に雪と呼んでください」

「わたしも花で」

「ありがとう雪さん、花さん」

敬子さんの感じの良さと、それ以上に隣にいる父が幸せそうで、それだけで嬉しい。

母だった人が出て行ってからずっと、一人で娘2人を育ててくれた父、私も花もこの家を出て行った時に一人残される父のことが気がかりだった。
父には、父親としてだけではなく男としても幸せになって欲しいと、賢一と結婚してからより強く思うようになった。


皆んな席についたとき、今まで見たこともないくらい父が緊張していた。

「あーその、なんだ、先に言っておきたいんだが・・・いいだろうか?」

私は花と顔を見合わせてから大きく頷いた。


「実は、敬子さんと籍を入れようと思っているんだが、どうだろう?」

モジモジしている父の隣で敬子さんは緊張の面持ちで固まっている。

「そんなの、二人の気持ちが固まっているのならいいに決まってるでしょ」

「うん、わたしもお父さんに幸せになって欲しいもん」

「「ね」」と、花と一緒に頷く。

「ふつつかな父ですが、よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」
敬子さんは一気に力が抜けたのか柔らかく笑った。

「よかった、実はわたしもこの家を出て新と住むことにしたんだけど、お父さん一人で心配だったの」

さらっと言った花の言葉にキッと新二くんを見ると雪豹に睨まれた野うさぎの如く一瞬怯えの色が見えた。

「あの、その」
言葉にならない新二くんの代わりに花が答える。
「お姉ちゃん、心配しなくて大丈夫だから」

花が好きなんだから仕方がない。

「くれぐれもよろしくね」

「はい、絶対に花を悲しませたりしません」

新二くんはキッパリと言い切り、それを聞いた賢一は私の肩をそっと抱いた。
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