Re:habilitation study ~鬼指導教官にやられっぱなし?!
【Next step study その4:逃げられなかったあたし達にご褒美を・・・】



【Next step study その4:逃げられなかったあたし達にご褒美を・・・】


『全然変わらないですね!作業療法室。』

「商業施設とかじゃないから、そうそう変わらないだろ。」


実習に来ていた1年ちょっと前ぶりに訪れた名古屋南桜総合病院作業療法室。
休診である土曜日の午後、しかも午後4時という時間帯でもあるせいか誰もいなくて廊下は薄暗い。

平日の作業療法室内は椅子の取り合いが始まってしまうぐらい多くの患者さんがやってくるため、常に手狭な空間化している。
でも、誰もいない今日はやけに広く感じて逆に落ち着かない。


『ここで、レイナさんと岡崎先生がハンドセラピィをやっていて、初めて見た時は動けなくなるぐらい本当に惹きこまれました。』

「へ~。そんなことがあったのか?」


覚えていないんですね、岡崎先生は・・・
あたしが整形外科医師の森村先生に耳を噛まれそうになった時、あなたは森村先生に食ってかかってくれたんですが・・・

まあ、ハンドセラピィ中の岡崎先生は、集中し過ぎて周囲なんて一切気にしない、いわゆるゾーンに入っているらしいですし、
ここには数多くの患者さんもいらっしゃるので
いちいち覚えていらっしゃらないってとこなんでしょう


『ええ。あの時は、岡崎先生にハンドセラピィをしてもらっているレイナさんが羨ましいと想うこともおこがましかったな・・・』

「へえ~。なんで?」


スプリント材料やそれをきる大きなハサミを持ち運びながら、あたしの呟きをしっかりと聞いていた彼。
他人事のような顔をしている。
やはり彼はハンドセラピィをしている時に第三者からどう見られているかなんて全く興味がないようだ。


『あの頃のあたしは、ただの実習生で・・・岡崎先生への私的な感情を持つなんてあり得ない・・無意識にそう思っていたのかもしれません。』

「・・・あの頃の俺は、もし噛みつかれていても、ちゃんともらってやるから安心しろってちゃんと言ったのにな・・真緒に。」


あの頃のあたしに対してのあの頃の俺
しかも、ちゃんと覚えているじゃん!
あたしが森村先生に耳を噛みつかれそうになったことを・・・

って、ちゃんともらってやるって・・・
あれ?

そんなこと言ってた?


『えっ?今、なんて?』

「なんか言った俺?」

『えっ?えっ?今、すごく大事なこと言ってた・・・』

「は~い。まおちゃん、スプリント作りましょ。この紙の上に手を置いて下さいな。」

『えっ、ここに手?ですか?』

「そうで~す。スプリント初心者のまおちゃんは、まずは掌側コックアップスプリントからで~す。作り方を教えるからまずは被験者になれよ。」


大事なことを口にしていたはずの彼は、何もなかったかのように、白いコピー用紙の上に載せられたあたしの左手を鉛筆でなぞって手際よく手形を取った。

「次は、この手形を熱可塑性プラスチックに移し描きする。真緒、この手形に沿って紙を切ってから、プラスチックに移し描きしてみて。」


さっき口にした大事なことをもう一度言ってとお願いできないぐらい、涼し気な顔をしていた彼。
もうこうなったら、彼のペース


「おっ、描けたな。じゃあ、はさみで切り取るんだけど・・・」


下手したら、スプリント作りにおいてせっかちな彼に置いて行かれる可能性あり
とりあえず今は、言われたことをやらなきゃ・・・




“パタッ・パタッ・パタッ・パタッ・・・”






作業療法室の外から聞こえてくる足音らしき音。
なんだろう?と思い、岡崎先生を見ると、久しぶりに見る般若顔。
(学生時代はマイナスイメージしかなかったその顔が今では大好きだけど)


「マズイ!!! 真緒、逃げるぞ!」


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