Re:habilitation study ~鬼指導教官にやられっぱなし?!



「岡崎先生、もう時間がありません。急いで下さい!!!!」

会場スタッフらしい男性に強い口調で促された岡崎先生は本当に時間がないことを自覚したのか、もう一度頷いた後、今度こそあたしの視界から消えた。


残されたのは、あたしの手のひらにある、岡崎先生が作ったものと思われる紙飛行機。

それは折り目がきちんと整っている、手先が器用な彼らしいもの。
多分、A3サイズ用紙を折りたたんだもので
外観は真っ白だけど、紙の内面にはなにか書かれているようだ。

以前のあたしなら
“またこういう小細工して、次会える予定を教えてくれるのね”って
くすっと笑いながら、紙飛行機を開いて紙の内面を確認するんだろう


でも、これが最後だという岡崎先生の言葉を耳にしてしまった以上、

『確認なんてできない・・・確認したら・・・彼と本当にもう終わってしまうことを自覚しなきゃいけなくなる・・・わかってはいるけど・・・できない・・・・』

あきらめの悪いあたしは、手の上にのったままの紙飛行機をどうすることもできない。


≪岡崎先生、紙飛行機、飛ばしてた!!!≫

≪演題に関する何かのパフォーマンスなのかな?≫

≪発表、始まっちゃう!!!!早く会場内に入ろう!!!座るところなくなっちゃうから≫


たったひとつの紙飛行機に身動きが取れないあたしとは対照的に彼の発表を聴きたいらしい人達がザワつきながら会場内へ入っていく。
ハンドセラピイ領域での岡崎先生の知名度の高さに改めて驚かされる。


「初めて知った?ハンドセラピイ領域での伊織の人気ぶり。」

『・・・・・・・』

「しかもこの研究会、全国レベルだからね・・・」



岡崎先生が飛ばした紙飛行機を両手で支えたままのあたしの耳元で松浦先生が囁く。


「伊織・・・今回の全国研究会に発表する前には、アジアの学会で台湾に行ってた。英語論文も書いて・・・おまけに実習生の指導もしていて・・・・僕が行っていた養成校の特別講義までも自ら進んで請け負ってくれて・・・でも、生き急いでいるように見えたな、僕は。」

『そんなにも・・・・』

「やってもやっても、まだ足りないって・・・自分の時間をなんとかして埋めようとしているんだ。今もなお。」


あたしと一緒だ・・・
自分の時間をなんとかして埋めよう
彼を想わずにいられるようにするために
そう思っていたあたしと



「でも、これが最後・・・か・・・正直信じられない・・・」


松浦先生はそう言いながら、紙飛行機に目を落とし溜息をつく。


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