パリの空の下、極上セレブ御曹司の貴方に今日も甘やかされてます
 早速、自分の試作のレシピにこのオイルを加えてみた。
 この清々しさ、トップで香らせたい。
 分量を量り、スポイトでたらし、混ぜる。

「……これだ」
 あの日の香りの記憶とぴったり重なった。
 香りとともに、朝日を浴びてゆっくりと開花してゆく芍薬の姿が、ありありと目に浮かんでくる。

「どう? 具合は」
「はい。これだと思います」

 わたしは今、調合したばかりの香水を含ませたムエットを手渡した。

 香りを嗅ぎ、彼女は顔をほころばせた。
 それから、優しい眼差しでわたしを見つめた。

「とても斬新だけれど、どこか懐かしくて、ずっと嗅いでいたい香りね。薫、あなたはたしかに逸材よ。ここ10年ほど、あなたのように優れた生徒に出会ったことなかった」
「マダム……」

「わたくしが保証します。あなたは調香師として成功を収められる素質は充分持っているわ。あとは運と努力次第ね」
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