きみの青
 言えなかった。聞けなかった。あの日、僕が見たものはいったい何だったのか、どういう意味だったのか、車の中で早希の肩を抱いた男は誰なのか、聞きたかったけれど聞けなかった。聞くのが怖かった。聞いて答えが返ってくるとしてその答えが怖かった。

 もしも僕がそれを見たことを早希に告げたらすべてが壊れてしまう。僕の世界が終わってしまう。そう思った。

 見なかったことにしよう。僕は何も見なかった。ユミちゃんとカレーを食べてぶらぶらデートしておしまい。白い車も早希も知らない男も見なかった。
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